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イノベーションを育む環境 


最先端エンジニア対談


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東京大学 工学系研究科
物理工学専攻 助教授
博士(工学) 古澤 明 氏

三者間の量子テレポーテーションに世界で初めて成功し、「将来のノーベル賞候補」とも名高い古澤先生に、「イノベーションを育む環境」をテーマに、弊社戦略マーケティングマネージャ 許斐俊充がインタビューさせていただきました。


許斐  「テレポーテーション」と聞くと、SF的に人が他の場所へ瞬時に移動することを連想する人も多いと思いますが、量子情報のテレポーテーションについて簡単に説明していただけますか。

古澤  はい。簡単に説明すると、テレポーテーションとはイメージの通り、ある物がA地点とB地点の間の空間を動くことなく移動することですが、量子情報のテレポーテーションとは、特殊な光を用いることによって作り出した2つの量子が、空間的にどんなに離れていても片方への測定の影響がもう片方へも瞬時に及ぶことを用いて、量子情報の伝送を行うことです。

許斐  その実験の成果にはどのような意味があるのでしょうか。

古澤  この実験の成果を活用することで、今(2006年現在)あるスーパーコンピュータで千年かかる計算を数秒で処理することができる量子コンピュータや、絶対に情報を盗まれることのない暗号技術など、色々な新技術が発展するでしょう。

許斐  それは期待できますね。ところで、そのようなイノベーションを育む環境をどのように作り上げるのか、本日はその秘訣を先生に伺いたいと思います。
まず第一に人材育成が挙げられると思いますが、古澤先生は基本的に実験を全て学生に任せていらっしゃるとお聞きしました。

古澤  うちの大学には優秀な学生が揃っているので、自分なりに深く考えてやってくれます。FACE TO FACEでのコミュニケーションをしっかり取ってさえいれば、状況を把握できますので、まったく心配していません。大切なのは正しい目標を設定し、それを与えることです。正しい目標をチームに与え続けて行くことが私の仕事です。

許斐  どのようにその目標を設定し、実験の評価をされているのでしょうか。成果が革新的であることが前提条件である研究の中での目標設定は大胆に行う必要がありますか。

古澤  実験の結果の良し悪しを評価するための決められた評価規準はありません。世界初であることが大前提なので、結果が出てから判断するのでは遅いのです。実験をやりながら革新的な結果が出ることのみをやらせるように心掛けているので、成果が出ればそれが革新的であると評価していくスタンスです。

許斐  興味深い視点です。チームが目標に向かって進む中で、イノベーションが生まれる方向に軌道修正をして行く。まさにプロジェクトマネージメントですね。

古澤  そのとおりです。

許斐  世界で初めて三者間の量子テレポーテーションを成功させてからも、次々に世界記録を更新し続けていらっしゃるとのことですが、その秘訣はなんでしょう。

古澤  やはり、「面白い」と思えることをやり続けるのが良い成果を生み出す秘訣だと思います。「疲れたら止める」、「分からないときは考えない。」というように、できるだけ本能に従い、楽しむことが大切だと思っています。突き詰めて考えることを意識しすぎてしまうといいアイデアは浮かびません。無意識に別のことをしている時に、ふっといいアイデアが浮かんでくるのです。私の場合、例えば電車の中で脳が半分寝ているようなリラックスした状態の時に一番良いアイデアが浮かびます。

許斐  ひらめきはすぐにメモを取るなど、心掛けていらっしゃることはありますか。

古澤  特にありません。メモしないと忘れてしまうようなものは、大したアイデアではないのです。本当に大切なことは鮮明に頭に残るものです。

許斐  面白いと思えることにフォーカスし、直感を信じて自然の流れを大切にする。その中で生まれてくるアイデアが良い成果に繋がるということですね。

古澤  そうだと思います。人が最も効率よく能力を発揮できる環境はそれぞれ違うので、学生にも私のやり方を押し付けるのではなく、自主性を尊重したいと考えています。

許斐  実験機材はほとんど自作していると伺いましたが、その実験機材の選定や制作にはどんなこだわりをお持ちですか。

古澤  これも各個人が面白いと思う方法でやってもらっています。学生が使いたいと選んでくることもありますし、私の経験上、使いやすいと分かっているものは私から薦める場合もあります。

許斐  では、弊社のLabVIEWやPXIなども皆さんが「面白い」と感じてお使いいただいているということでしょうか。

古澤  そうですね。特に学生は効率の良い物しか使いませんからね。

許斐  実験室にはいろいろと箱型の計測器もあり、人手で調節している部分もあるようですが、最近では計測もPCベースでの自動化が主流になってきています。

古澤  すべてをリアルタイムの自動制御で、データはデジタルで処理するというのが時代の流れであることは確かです。ただ、私たちが必要としている要件を満たすにはまだ自動化できず、人手に頼る部分もたくさんあります。今後PCベースの計測器のスペックが上がってくれば、私たちの行っている実験も、より効率的に行うことができると思います。


インタビューを終えて

起業家と似たオーラを纏っている。これが古澤先生とお話しさせていただいての印象だった。明確なビジョンを持ち、チームのモチベーションを高め、限られたリソースを最大限活用することで、イノベーションを生み出し続ける。確かに革新的な研究活動を行うのに不可欠な要素ばかりだが、ベンチャー企業が成功するのに必要な要件とぴたりと一致することに気づかされた。印象的だったのは

1.実行したか否かよりも成否の方を評価する
2.研究のやり方そのものは評価しない
3.研究のためのリソースの使い方も決めない

など、一見直感に反するようなポリシーも明確な意図を持って貫いているという点。目標設定が成功の鍵であると位置づけ、チームの自主性と独創性を重んじ、「面白い」と思える感覚を大切にするという古澤先生のリーダーシップから企業人としても学ぶところが多かった。世界的に注目を浴びている古澤先生の研究に弊社の製品を通じて少しでも貢献できればと願うばかりである。

日本NI マーケティングマネージャ 許斐俊充



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